全能感
この間、「自分はバカだからこんな簡単な問題も解けないんだ」と泣いている子どもに出会った。
その日はなんだか調子が悪かったらしく、普段ならできるようなことがうまくいかず、坂道を転げ落ちるように泣けてきたんだと思う。
バカじゃないしあなたは優秀なんだから、そんなこと言わないでと何度も伝えて、なんとか立ち直っていた。
そのあとは何事もなかったようにけろっとしていたので安心したのだが、実はこれまでも、「自分はバカだから」とこぼす子どもに何人も遭遇してきた。
本当にそんなことないのに、と思う。
大人になればなるほど、自分に期待することがバカらしくなってくる。
それは子どもの時と比べて自分の実力を相対的に評価できるようになった証でもあるし、自分の能力の限界にある程度の見切りをつけられたことの証でもある。
子どもの時の全能感というのは歳を重ねるごとに削がれていき、最後には自分一人で何かをすることは案外難しいらしい、と悟るわけだ。
この「自分一人でなんとかすることが難しい」というのは当然本当のことで、その例に漏れず私も、最近自分一人で何かをした記憶なんてほとんどない。
誰かの力を借りないとなにもできないと、日々思い続けてもまだ足りない。
けれど同時に、人の力を借りるにしてもそれは要するにそれぞれ個人の力を借りている、ということは忘れない方がいいんじゃないかとも思う。
結局拝借しているのはその人個人の能力であって、私もまた微力ながら誰かのために尽力したいと思うわけ。
たしかに子どもの頃に思っていた全能感とは全く異なる感覚だけど、自分の力で誰かのためになれたらと思うのは、ある種自分の能力に期待していることになるのかもしれない。
子どもの頃から自分の能力を信じられなかったら、一体なにを頼りにやっていくんだろう。
子どもの時くらい全能感に溢れていたっていいし、その全能感が削がれる中でわずかに残った力があればそれだけで十分なんじゃないかと思う。
自分がバカだからなにもできないなんて、テストの点数や成績だけで人の価値が決まるようなこと言わないでいいのに。
彼らが早く、数字だけでは測れない人の価値があると気づけますように。
時間はかかるだろうけど、そうと分かれば先は明るい。あなたは全く、なにも悪くないと伝えたい。