ささやかなエール
電車の中で素敵なお召しものを着た女性に出会った。
ひらひらふわふわしたロリータ服に、真っ白な日傘を持っていた(今日のこの地方の天気予報は終日雨だ)。
顔が可愛いからとかいう理由ではなくて、自信ありげな彼女にはその服がとても似合っていたし、私も、いい意味で目を奪われた。
もちろん、窓から入るほのかな光を、ロリータ服の白が反射していただけという説もあるけれど。
私が彼女に釘付けになったのは「私がそういう服を着てみたい」とかいう話ではなくて、「好きなものを追い求める彼女のスタンスを大変尊敬した」という点に尽きる。
実際、私の隣に座っていた初老の男性は、彼女が電車に乗ってくるなり怪訝な表情でその服装を眺めていた(そんなにみなくてもいいのに)。けれど彼女はもはや自分の世界に没頭しているわけだから、男性の視線なんて全く気にしていない様子だった。
むしろその視線を気にしていたのは、部外者の私だけだったのかもしれない。
彼女は自分の世界の王女として、凛と座っている。それだけでいいのかもしれない。
私と私の母はファッションのセンスが全く違っている。少し風変わりな服を好む私のセンスを、彼女は「あの子の選ぶ服はダメだわ」と言っていたらしい。
他所のセンスを一刀両断する姿勢に疑問は残るが、私はそれでもいいと思う。みんな、いつだって自分が正しいんだから。
住んでいるセンスの国やその法律が少し違うというだけで、特に大きな問題ではない。
私は、ロリータ服の彼女にどうしても声をかけたくなった。
「素敵なお洋服ですね」「とても似合っていますよ」「レースが繊細でかわいいですね」
訝しげな視線に慣れてしまった彼女に、少なくとも私はあなたのセンスが素敵だと思うし、自信ある姿に大変感銘を受けたと伝えたかった。
けれどこういう時、いらぬプライドが邪魔をして、座ったままの脚を椅子から離れないようがっちり固めてくる。
「突然声をかけられても困惑するだろうから」と適当な理由をつけて、私は彼女に、心の中からささやかな共感のエールを送った。