思考の自由研究

世界で一番かわいい言葉は「もぐもぐ」だと思う

人生模様

東京の人は、本当に歩くのが早い。
 
みんなが何に急かされているのかはわからんが、一方で暇を持て余す私は、人の波に飲み込まれないよう必死だ。
 
普段使わない駅なんて構内図も頭に入っていないわけだから、その中であの規模の人混みに巻き込まれるともうそれはすなわち死、というわけ。
 
しかも東京は駅の数が異常に多いので、「すなわち死」の確率もぐんと上がるわけ。本当に文字通り、毎日が戦闘。
 
 
 
新生活に向けて準備をする人の様子をネットやリアルで拝見するようになったけれど、その様子を見ているとかつての自分を思い出す。
 
東京での新生活に想いを馳せて上京したものの、現実にあるのは異様に高い物価と、治安の悪い満員電車(しかも毎日遅れる)。
 
特にこの満員電車が衝撃的で、乗車率体感2000%の車内で大の大人が繰り広げる口喧嘩は、まさに圧巻の一言だった。
 
雨の日の車内では、他人の傘で濡れるかは案外大した問題ではなくて、他人の体重で圧迫されて窒息しないよう必死に生きることがたいせつであることを学んだ。
 
電車の車内は、駅構内の忙しなさよりも学びが多い。
 
 
 
電車の車内だと、電車そのものは運転手さんが運転してくれる分、どれだけ急いでいる人でも立ち止まらざるを得ない。そしてその立ち姿には、人間模様が現れると思う。
 
幸運にも見目麗しい女性に出会うこともあるし、些細なことで執拗にイライラする人に出会うこともある。
 
私の主観でしかないけれど、人もいれば、悪い人もいる。けれど正直なところほとんどの人はその区別もつかなくて、一言も発さず、人と目を合わせないように虚空を眺めるだけだ。
 
 
 
車内の様子をぐるりと眺めると、靴紐がほどけたまま猫背で佇むオジサマを見かけることがある。
 
彼らには申し訳ないながらも、正直、「ああはなりたくない」と思ってしまう。
 
彼らが生きてきたのは考えることがあまりに多い人生で、その靴紐もきっと視界には入っていない。そしてその力ない風貌を見るたびに、無性に悲しくなるのは私だけではないはずだ。
 
性別の垣根を超える予定はないにせよ、少なくとも私は、そのほどけた靴紐を直す程度のゆとりは持っていたい。
 
電車に乗ると、私の頭の中は妄想でいっぱいになり、人への興味が尽きることはない。