オブラート
天気予報のコーナーでは、天気が徐々に悪くなることを「下り坂」と表現する。
「今日の天気は、午後から次第に下り坂」なんて具合に。
物心ついた頃からこの「下り坂」という言葉が釈然としなくて、雨なら雨で悪い天気と言ってしまえばいいのに、と思っていた。
積もりに積もったその疑問をその話を父親にしたら、「あなたにとっての悪い天気は、他の誰かにとってはいい天気かもしれないからね」と言われた。
たしかに、あまりに主観的な言葉を公共の電波で発信するのは気がひける。
人に話す時、「よくない」とか「いい」とかいうことを直接的な表現でもって伝えていいものか、とても悩ましいと思う。
私はその状況を又聞きした状態にすぎず、彼ら彼女らの主観的な状況見聞から私が主観的なジャッジをくだしたら、それはもう正しさなんて誰もわからないカオスになってしまうんじゃないかと思う。
それは流石に言い過ぎだとするのなら、私の主観が果たしてその人たちにとって正しいかどうか、私の正しさが受け入れられるものなのかとまた悩ましい。
自分の意見が全て正しいと自信を持てる人なんているのかしらと思う。
でも世の中には、例えば社長とか役員とか、自分の意見を正しいとせざるを得ない立場の人もいるわけで、その人たちはどう折り合いをつけているのか、とても気になる。
私はただ単に、自分の思う正しさが受け入れられないことが怖くて、予防線を予防線で囲った挙句オブラートで包みまくる物言いをしているだけなのかもしれない。
胸を張って歩く自分を時たま戒める臆病さはもっておくべきだと思うけど、それが保身のためになるのであれば、きっと捨ててしまうべきだと思った。
少なくとも気象予報士さんの言う「下り坂」は保身のためじゃないわけだから、当時の自分が思っていた違和感は、大して重要ではなかったのかもしれない。